新宮港から船に揺られて約20分。
福岡県・相島。
「猫の島」として名高いこの島が、一年で最も活気づくゴールデンウィーク。
港が観光客で賑わいを見せる中、私はあえて人の流れを外れ、集落の奥へと足を進めてみました。
お目当ては、猫ではなく、路地裏に息づく
「昭和ガラス」
と静かな記憶。
それは、ひとりで歩かなければ見落としてしまうような、とても小さな、そんな島の素顔です。
猫の姿さえ見かけない、静寂に包まれた坂道の先。
そこで出会ったのは、銀河のようにきらめく古い窓と、私だけの特別な時間でした。
にぎわう港と、あえて選んだ「裏道」
ゴールデンウィークの相島は、いつもと少し違った空気をまとっていた。
朝一番の便で島に渡ったときは、いつも通りのゆったりした時間が流れていた。
けれど2便、3便と続くにつれて、港の広場はみるみるうちに人で埋まっていく。
家族連れ、カップル、カメラを持った人たち……
みんな思い思いに、猫を探して歩き回っている。
こういう日に人の流れに乗っても、私の中の「相島」は見えてこない。
そう思ったとき、ふと
「今日はこの前とは違う町並みを歩いてみよう」
という気持ちが湧いてきた。
猫スポットよりも、集落の奥へ。
観光マップには載っていない、ただの「生活の道」へ。
それだけで、なんだかわくわくした。
相島・坂道散策 観光客のいない、静かな時間
港から少し離れると、潮騒に混じっていたざわめきが、少しずつ遠くなっていく。
居住区へと続く坂道は、コンクリートが不規則に盛り上がっていて、
歩くたびに足の裏にその凹凸が伝わってくる。
整備されすぎていない、昔のままの道。
このゴツゴツした感触が、なぜか好きだ。

猫の姿もほとんど見かけない。
実際1匹も遭遇しなかった。
相島なのに。
おやつを持った観光客がいないと分かっているのか、
みんなどこかでのんびり昼寝でもしているのだろう。
とても静かだった。
自分の坂を登る足音だけがザッ、ザッと耳に入ってくる。
誰かに急かされるわけでも、何かを探すわけでもない。ただ歩く。
それだけで十分だと思えるのが、この島の不思議なところだ。
昭和ガラスとの再会 「銀河」が彩る町並み
集落の奥に入ると、古い家々がひっそりと肩を寄せ合うようにして並んでいた。
目に飛び込んできたのは、私が求めていた昭和ガラスたちのきらめき。
格子のような幾何学模様、波のような曲線、そしてあの星屑を散らしたような「銀河」。
相島はなんとなく「銀河」率が高い気がする。
人が行き来していたので写真は収めることができなかったが、まだまだ現役でホッとした。
同時期に建てられたならガラスなどの建材も同じものを注文していたのかな?
勝手にいろんな想像を膨らませる。
一軒、また一軒と、銀河柄の窓が続く。
当時、人気のデザインだったのがうかがえる。
海の近い島の家に、銀河。
当時、このガラス越しに光が揺れるのを見て、きれいだなと思っていたのだろうか。
ふと振り返ると、坂の先に港が広がっていた。
古い町並み、穏やかな空気、きれいな海。
映画のワンシーンのような景色が、そこにあった。
昭和ガラスを探しながら歩いていたら、思いがけず絶景に出会っていた。
こういう偶然が、路地歩きの醍醐味だと思う。
廃屋に咲く昭和ガラス「らんまん」と、時の流れ
集落をさらに奥へ進むと、長いこと人が住んでいない家が現れた。
朽ちた木の壁、背の高い雑草が覆うかつての庭。
でも窓だけは、不思議なほど綺麗に残っていた。
そのガラスが、午後の光を受けてキラリと輝いた瞬間—-
「らんまん」だと分かった。

細かな飴細工のような模様が全面に広がる可憐なデザイン。
まるでそのガラス自身が、時の止まった家屋でひっそりと咲き続けているようだった。
誰もいなくなった家で、それでも光を受けて輝いているガラス。
かつてここには、毎朝このガラス越しに朝日を見ていた誰かがいたはずだ。
食卓を囲む声や、玄関を出ていく足音があったはずだ。
誰もいなくなった家。
時間だけが静かに積み重なって、ガラスの模様だけが変わらずそこにある。
そういう場所に出会えたことが、なんだかうれしかった。
らんまん以外にもいろんな昭和ガラスがあります(現在追加中)

先入観を捨てて見つける楽しみ
今日の散策でひとつ、気づいたことがある。
「相島に昭和ガラスはないだろう」
と、どこかで思い込んでいた。
民家の密集した集落や、かつての漁師町でもなければ、残っていないだろうと。
でもそれは、ただの先入観だった。
灯台下暗し、とはよく言ったもので、何度も来ている島に、まだ見たことのない景色がこんなにあった。

ゆっくり歩いていると見えてくる。立ち止まると光るものに気づく。
来月はまた、違う場所を歩いてみようと思う。
どこに何があるかなんて、行ってみるまで分からない。
その分からなさが、旅の一番おもしろいところだから。
「ここにはないだろう」
という思い込みは、意外と多くの発見を遮っています。
特に昭和ガラスは、観光地より
「ふつうの集落」にこそ残っているもの。
足を止めて、ガラスを眺めて、振り返る。それだけで、旅がぐっと深くなりますよ。
相島へのくわしいアクセスはこちらの記事に書いています。


